最近のクラウド市場はまさに成熟の様相を呈しています。
クラウドインフラストラクチャの序列は比較的安定しています。AWSの市場シェアは33%、2番目のMicrosoft Azureは22%、3番目のGoogle Cloudは11%で後塵を拝しています。(IBM、Oracle、Salesforceは2~3%程度)
収益成長率は業界全体で安定していますがやや伸び悩んでいます。ビッグ3のどれもが勢力図を大きく変えるほど他を上回っていません。市場全体の安定性は価格にも及び、いくつかの例を覗いては比較的均一価格です。現時点では、大手企業が同様の製品を提供するまで市場が成長しています。
しかしジェネレーティブAIの出現がすべてを変えます。
OpenAIのChatGPTの一般公開が招いた狂乱は、ハイパースケーラーの間に軍拡競争を引き起こしました。各社は、自社の大規模言語モデル(LLM)を開発し、ジェネレーティブAIアプリケーションを作成できるプラットフォームを構築し、サービス提供のポートフォリオ全体にジェネレーティブAIを統合することによって差別化を図ろうとしているのです。
クラウドコンピューティングのエキスパートであるデビッド・リンティカム氏は、次のように説明しています。「クラウドプロバイダーは、競合企業と比較して自社が提供できるサービスが飽和状態に近づいているのです。その結果、これらのサービスがコモディティ化し、マルチクラウドが人気を高めている今、ストレージやコンピューティングなどの中核サービスはどのクラウドでもほぼ同様になります。
これはクラウドプロバイダーによるジェネレーティブAIの促進が関連しています。誰がこの分野を所有し、従来のクラウドサービス上にこの新しいテクノロジー積み重ねることで、サービスの脱コモディティ化を図ることができるかを決定するレースなのです」ジェネレーティブAIに関するレースはまだ始まったばかりであり、明確なリーダーは存在しませんが、すべてのプレイヤーはレースにリソースをつぎ込んでいます。
OpenAIに100億ドル程出資したマイクロソフトは、WordやExcelなどの生産性アプリからそのEdgeブラウザ、企業向けのクラウド製品であるAzure OpenAI Serviceに至るまで、あらゆるものにChatGPTを埋め込んでいます。
Googleは、ジェネレーティブAIプラットフォームの構築を急いでいます。共同創業者のセルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏も半引退状態から脱却して、ジェネレーティブAIのイニシアチブを立ち上げたくらいです。Googleは、PaLMと呼ばれる自社の大規模言語モデル(LLM)を所有し、自社のAIチップ(テンソル・プロセッシング・ユニット)を開発しており、Vertex AIバナーを基盤に、業界特有の新しいAIベースのサービスを開始しています。近年は、ヘルスケア企業とライフサイエンス企業を対象としたジェネレーティブAIベースのサービスを開始しました。
AWSは近年、企業のソフトウェア開発者が自社のプログラムにジェネレーティブAI機能を埋め込むことができるフルマネージドサービス、Bedrockを発表しました。AWSはまた、低コストのAIチップ (InferentiaとTrainium) を数量限定で製造しています。このチップを社内で使用してジェネレーティブAI機能を強化しており、顧客にもチップを提供しています。
ジェネレーティブAIはクラウド市場において最もホットなトレンドであることは間違いありませんが、CIOが目を向けるべきものは他にもあります。クラウド市場のトップトレンドと、それらがCIOのクラウド戦略に与える影響をここで見てみましょう。
ジェネレーティブAIのゴールドラッシュ – コストの不明確さ
「今年はAIの年だ」とForrester Researchは宣言しています。「どのハイパースケーラーやSaaSプロバイダー、新興企業も、AIへの注目を利用して自社を有利な立場にしたいと思っています。クラウドプロバイダーは、AIサービスを推進して伸び悩む収益から脱却し、ライバル社との差別化を図ろうとしています。企業向けクラウドの顧客は、自社の戦略イニシアチブに出来る限りAIを使いたいと思っていますが、マルチクラウドの複雑さとスプロール化からすでに逼迫しているIT予算を破綻させることなしに実行したいと考えています。
企業のIT部門にジェネレーティブAIベースのクラウドサービスを提供しているのはビッグ3のハイパースケーラーだけではありません。IBMは、オープンスタックベースのwatsonx AIプラットフォームでさらに力を入れています。自社のジェネレーティブAIチップ(GPU)の大部分を各社に提供しているNvidiaは、DGXクラウドと呼ばれるフルスタックのクラウドプラットフォームを構築しました。これはOracleクラウド内に存在するAIサービスで、まもなくAzureとGoogleクラウドで利用できるようになります。
これはCIOにとって、現行の業務プロセスにジェネレーティブAI機能を構築する際にクラウドベースのオプションが多数あるということです。AIベースの新たなアプリケーションを構築するというオプションもあります。
VMwareでエグゼクティブテクニカルアドバイザーを務めるバーナード・ゴールデン氏は、企業の機密データをどのように保護し、LLMデータベースを構築するデータプールに入らないようにすることが課題であると述べています。
リンティカム氏は、ジェネレーティブAIベースのアプリは「実行には高いコストがかかるため、CIOはこのテクノロジーを使う適切なユースケースを見つける必要がある」と付け加えています。
自社が依存するクラウドサービス上に構築されたジェネレーティブAI機能を最大限に活用したいCIOにとって、価格設定に関する当初の説明はかなり曖昧でした。
クラウド価格 – AIのおかげで急上昇
IBMが最高26%のストレージサービスの値上げ、およびIaaSとPaaSサービスの少額の値上げを発表して大いに話題を呼びました。
一般的に言えば、クラウドプロバイダーは競合性を保つために価格上昇を抑えてきました。しかし、業界全体における成長の鈍化により、今後すべてのクラウドベンダーに値上げのプレッシャーが強まる可能性が高くなっています。リンティカム氏は「テクノロジーへの投資から価値を得なければならない時期に来ており、今後数年でクラウドサービスの価格はじわじわと上がっていくと思われる」と述べています。
もちろんクラウドサービスを使用する利点は、顧客は自身のニーズを満たすインフラ構成を選べることです。初代プロセッサーを選べば、それなりの価値があります。しかし高性能のコンピューティングが必要な企業や、AIの恩恵を享受したい企業がより新しいモデルチップを選択する際は、高額になってしまいます。
例えば、Nvidia H100チップでワークロードを実行する場合、前モデルのA100と比較して価格上昇は220%を超えると、Liftr Insightsの運用・製品担当のドリュー・ビクスビー氏は述べています。
さらにハイパースケーラーがGPU(従来のCPUに比べてかなり高価である)を自社のデータセンターに追加すれば、それにかかるコストは顧客に転嫁される可能性が高くなります。
業種別クラウド – ジェネレーティブAIの優位性を享受
業種別クラウドは上昇傾向にあり、ジェネレーティブAIの台頭から恩恵を得るだろうとDeloitte Consultingのプリンシパルであるブライアン・キャンベル氏は述べ、業種別クラウドは「ビジネスとテクノロジーのエグゼクティブ両方の最重要課題である傾向がある」と説明しています。
テクノロジー部門の幹部は、業界特化型クラウドが提供するスピードや柔軟性、および効率性を求めており、ビジネスリーダー達は、自社のビジネスを差別化できる分野に社内の希少な人材を重点的に投入できることを高く評価しています。ヘルスケアや銀行、テクノロジー企業が早期に業種別クラウドを採用しましたが、現在ではエネルギー、製造、公共部門、メディアにまで広がっています。
「近年のジェネレーティブAIの爆発的な急増により、経営幹部たちはジェネレーティブAIを概念実証の域を超えてどのように使用するかを検討するようになってきており、他のテクノロジーと共にジェネレーティブAIを迅速に自社のサービスに取り入れている業種別クラウドの大手プロバイダーやハイパースケーラー、独立ソフトウェアベンダー、システムインテグレーターに目を向けるようになっています」と同氏はさらに述べています。
クラウドとオンプレミス間の不鮮明なライン
クラウドとオンプレミスの明確な境界線という古いパラダイムはもう存在しません。様々なシナリオに一斉に展開されるクラウドスタイルサービスの現象にあてはまる用語は多数あります。ハイブリッドクラウド、プライベートクラウド、マルチクラウド、エッジコンピューティング、あるいはIDCが定義するDedicated Cloud Infrastructure as a Service (DCIaaS、サービスとしての専用クラウドインフラ)などです。
IDCアナリストのクリス・カナラカス氏は、次のようにと述べています。「クラウドを特定を特定の場所ではなく、ITの一般的な運用モデルとして捉える見方が広まっています。スケーラビリティや順応性、使用量に基づく価格決定などの属性において、クラウドはどこでも利用できます。CIOにとっての今後の課題は、様々なベンダーが混在する環境でそれらをすべてまとめていくことです」
例えばAWSは、顧客がオンプレミスまたはエッジでAWSサービスを実行できるマネージドサービスのOutpostsを提供しています。マイクロソフトは、Microsoft Azure Stackと呼ばれる同様のサービスを提供しています。従来のハードウェアベンダーもまた、データセンターやエッジで実行できるアズ・ア・サービスを提供しています。Dell ApexとHPE GreenLakeです。
ロックインの輝きが失われ、相互運用性が高まる
競合するクラウドベンダーは、相互運用を実現する動機が特段ある訳ではありません。クラウドプロバイダーのビジネスモデルは、顧客を囲い込み、その特定のベンダーのツールやプロセス、マーケットプレイス、ソフトウェア開発プラットフォームなどに慣れさせ、その顧客がより多くのリソースを自社のクラウドに移行するよう促し続けることです。
しかし、企業顧客はマルチクラウドアプローチを異常なほど採用しており、クラウドベンダーはその現実に対応しなければなりません。
マイクロソフトとOracleは近年、Oracle Database@Azureの発売を開始しました。顧客はOracleのデータベースサービスをOracleクラウドインフラストラクチャー(OCI)で実行し、Microsoft Azureのデータセンターで展開できます。
ストレージリーダーのNetAppは、コードのリファクタリングやプロセスの再設計なしに、業務上不可欠なワークロードをWindowsとLinux環境からGoogleクラウドにシームレスに統合できる完全管理サービスを発表しました。
相互運用性へのこれらの障害が少なくなると、企業はストレージボリュームとアプリケーションを最も適切なクラウドプラットフォームに移行することができるようになります。
シチズンデベロッパーの増加
従来のITとシャドーITと呼ばれるものの間には常に摩擦がありました。ローコードとノーコードの出現により、ITスタッフでなくともシンプルなアプリケーションを容易に作成できるようになりました。例えば、マイクロソフトのPower Platformによって、業務ツールと連携するモバイルやウェブのアプリが作成できるようになりました。
しかしながらChatGPTはあらゆる技術的な制約に衝撃を与えました。例えば、マイクロソフトのCopilotを使えば、ユーザーはシンプルなプロンプトでコンテンツを書いたり、コードを作成できます。ITリーダーにとっては、これはメリットもデメリットもあるということです。組織にとって、スタッフが新しいコードやソフトウェアプログラムを作成して生産性を向上するのはメリットがあります。
しかしゴールデン氏は、Copilotなどのツールはその機能に限りがあると指摘しています。言い換えれば、シチズンデベロッパーが作ったこれらのシンプルで一回限りのアプリケーションはセキュリティリスクにつながり、スケーリングができず、複雑な業務プロセスと必ずしも相互運用できるわけではないということです。
FinOpsの普及とツール
パンデミック中には、リモートワーカーがアクセスしやすいように企業が猛ダッシュでワークロードをクラウドに移行した時期がありました。「今大きな付けを払わされている」とリンティカム氏は言います。
猛ダッシュで移行した結果、企業はクラウドのコストを管理・最適化するために FinOpsテクノロジーを採用するようになっています。同氏は、「FinOpsによって技術的負債を削減することはできますが、クラウドリソースの使用を標準化することによってさらにコストを削減できます。不適切なクラウドサービスの使用や、大量すぎるデータの移行など、過去に犯した間違いを訂正することができるのです」と述べています。
Forresterの研究者もこれに同意し、「経済的逆風が強くなった時は必ず、ITコストの最適化は勢いを増します。クラウドコスト管理においては、2018年に関心度が高まり、今年もまたそうなりました」と指摘しています。IT部門にとって朗報なのは、すべてのクラウドプロバイダーがFinOpsサービスを提供しており、クラウドのコスト管理ツールを提供するサードパーティーソフトウェアベンダーが多数存在していることです。
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