特集
May 14, 20241分
金融サービス業量子コンピューティング
銀行や投資管理グループは、ポートフォリオにまつわるリスクを削減し、正確な知識を得るために、かつてないほど迅速に量子の使用を試みています。これらの当初プロジェクトや、根本的変化をもたらす可能性を秘めたテクノロジーの使用がどのように進化しているかをここにご紹介します。
コンピュテーションが深く浸透している業界といえば、金融サービスセクターです。すべての変数の微調整・調節が必要となる最適化問題は、金融会社を日常的に悩ませています。定量分析によって開発された製品をはじめ、高度に設計された金融商品の場合は特にそれが言えます。
複雑な数学モデリングを大規模に行う必要がある金融業界は、量子コンピューティングの利点を最大限に活用するのに最も適した業界と言えます。量子コンピューティングでは、複雑な計算も含めて(かなり)高速に計算処理を行い、数週間から数か月ではなく、数分から数時間といった短期間で成果を出すことができます。
しかし、フルスタック量子サービス企業のPASQALで最高商務責任者を務めるベノ・ブロアー氏は、合理的な時間内に正確な知識を提供する量子の能力は、スピード面以外にもかなり価値があると述べています。「私たちは、より正確な価格付けの方法、それをさらに正確に実行する方法を知りたいのです。なおかつそれを1時間以内に知りたいのです。従来のコンピューターでは2週間もかかってしまい、その間に取引は失われてしまいます」と氏は述べています。
アライ・ファイナンシャルのエンジニアと金融アナリストの共同チームが量子に目を向けた理由の1つが「コンピュテーションの向上」を行うことです。彼らが着目したのは、一定期間に渡って一定のリターンを生み出す何百・何千という株式から構成される従来の上場投資信託(FTF)でした。その前提となるのは、個々の構成銘柄の一部が不調であったとしても、残りの構成銘柄が純利益を押し上げ、一定期間にわたってかなり予測可能なリターンがあるということです。
しかし、ETFの多数のコン構成銘柄の管理と操作はかなり骨が折れます。「株価推移には大きなばらつきがあり、多数の売買や取引手数料が発生します」アライの最高情報・データ・デジタル責任者であるサティシュ・ムスクリシュナン氏は述べています。
ムスクリシュナン氏とアライチームは、構成銘柄の少ないETFで同様のリターンを実現できないか検討してみました。そのためにまず、「カーディナリティ制約」の最適化問題について調べ、リターンを最大化してリスクを最小化する財務指標追跡ポートフォリオへのハイブリッド量子古典的アプローチを開発しました。彼らの研究成果により、IT改革とリーダーシップを称える2023年度アメリカCIO100アワードを受賞しました。
アライチームは、量子焼きなまし法と呼ばれる手法を使用し、少数の銘柄を選択することができました。「より少ない銘柄数でリターンを予測し、運用・取引コストを下げることができ、最終的にはばらつきを抑え、より正確にリターンを予測することができるのです」と氏は述べています。
量子の能力によってアライチームは50のシナリオを作成し、モデルをバックテストすることができました。そのような厳密さによって、従来のコンピューティングに使用されていたモデルの欠陥も浮き彫りになり、データ関連の研究においてより堅牢な基盤の開発に役立ったことは偶然の産物だったと氏は語っています。
量子が持つ独自の利点
ETFに関するアライの取り組みは、量子の計算処理能力によって業界に目覚ましい変化をもたらしす可能性のほんの1例にすぎません。
投資ソリューションを提供する欧州の銀行グループであるキールダン・グループもまた、量子コンピューティングを業務に取り入れている金融企業の1社です。「サービスとしての量子」企業であるTerra Quantumと協力し、投資ソリューションのための計算課題に取り組んでいます。この提携の主なフォーカスは、エキゾティックデリバティブです。これはクローズドエンドの式のない数学的関数で表されているため、独特の難しさがあります。
「X+Y=成果物の価値といった[単純な]方程式はないのです。その結果、私たちはモンテカルロシミュレーションを何千回も実行してデリバティブを計算しなければならないのです」ととキールダン・グループのCEOであるアントニオ・デ・ネグリ氏は述べています。従来のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)でもこのプロセスは骨が折れ、時間がかかります。しかし、キールダンなどの金融機関は努力を重ね、これらの面倒な計算をひたすら続けています。投資リスクを理解し、より効率よく管理する助けになるからです。
キールダンは問題解決に全力を尽くしてきましたが、計算は時間がかかりコストも高くつきます。Terraもまた量子コンピューティングで同様の最適化計算を行い、計算時間を75%短縮しました。同等の正確性を持ち、10分から2分になったのです。今後の反復により、さらに大きな経済効果が期待できると氏は語っています。
8分はたいした数字には思えないかもしれませんが、大きな利益につながる可能性があります。「ポートフォリオの規模や、[金融機関が]行っている賭け金の大きさを考えると、少しでも良い方法で計算ができれば、0.1%でも速くよりよく計算ができれば、それはすでに著しい上昇となるのです」とブロアー氏は語っています。彼は以前ポートフォリオのリスク評価にExcelベースのモデルを使って作業していた頃を思い起こしています。
「モデルを起動して実行のボタンを押し、夜の間にクラッシュしないように願いながら翌朝まで待たなければなりませんでした」と氏は述べています。よく言っても、うじうじと悩んでいるようなものでした。過去の取引でリスク制限を超えたかどうかしかわからなかったからです。
「多量のデータや多種多様な資産の取引があったり、多種多様な顧客に融資している場合、従来のコンピューティングでは容易に限界に達するのです」とブロアー氏は語っています。
量子が影響を与えられる分野
アライやキールダンが取り組んだ最適化問題は、量子コンピューティングに適しています。従来の計算処理では合理的な期間内に有意義な結果を出す能力に欠けているからです。しかし量子コンピューティングは、機械学習をより効率的にする可能性も秘めていると、Terra QuantumAGのイギリス常務取締役、および商品化の責任者であるヴィシャル・シェッテ氏は述べています。
量子の構成要素である量子ビットは、「データがかなり少なく、ノイズが多い場合でも学ぶことができるため、学習効率が非常に高い」と氏は語っています。これは、量子は従来のHPCよりも少ない制約で機械学習の課題に取り組むことができるということです。
キャップジェミニで、リテールバンキングとウェルスマネジメントのEVP、およびグローバルインダストリー代表を務めるニーレシュ・バイジャ氏は、機械学習における量子の価値に同意しています。「量子コンピューティングの能力を使った機械学習技術を応用すれば、モデルの機能がより向上し、より迅速に準備することができます。現在、モデルを作成・展開して、結果を出すには時間がかかりますが、量子を使えば、その一部を大きく加速させることができます」と氏は語っています。
技術的可能性の必要条件に加え、少しでも改善すれば事業価値につながるプロジェクトを厳選するべきだとシェッテ氏は企業に助言します。ステークホルダーの関心もまた重要です。「その他すべての要因が適合していても、提携する部門のリーダーが変更に抵抗したり後ろ向きであったりした場合、それが障害になってしまいます」とシェッテ氏は述べています。
「量子コンピューティングの長所と短所を理解できれば、各分野において量子が大きな価値を付加できる隙間を見つけることが出来ます。しかし、すべてに価値を付加できると思い込んでしまうと、落胆することになるでしょう。ハンマーを持って釘を捜しているようなものなのです。釘を見つけるのは大変な作業ですが、一旦見つければすぐにスタートできます」とブロアー氏は語っています。
量子業界プロバイダーとのパートナーシップ
それではどのようにスタートすればいいのでしょううか。量子チームを基礎から立ち上げる金融機関もありますが、多くはその分野のエキスパートとの提携を選択しています。
Terra QuantumのCEOおよび創立者であるマーカス・フリッチェ氏は、「銀行やその他の業界が社内で量子の能力を構築するのは、人材力不足を考えても実現可能ではないでしょう」と語っています。Terra Quantumなどの企業は、「最高の」量子ハードウェアへのアクセス提供に加え、従来のHPCコンポーネントをベースとした社内のシミュレーター上で量子ソフトを実行できます。キールダンはこの方法でエキゾチックなデリバティブの問題に対処しました。量子コンピューティングが、現在使用するNISQ (Noisy Intermediate Scale Quantum、ノイズあり中規模量子)デバイスを超える時、Terra Quantumのソフトウェアもまたそれらのプラットフォームに変換できます。
シェッテ氏は、量子スペシャリストはソリューションの知識を他の業界と共有できるとも指摘しています。例えば、「オプション価格で行っているシミュレーション作業は、化学企業での分子シミュレーションで実行できる作業と多くの類似点があります」と氏は語っています。量子のみの企業は、全体的に1つのセクターから得たアイディアをさらに改善できるとシェッテ氏は提案します。
量子の未来
Terra Quantumが現在取り組んでいる機械学習の課題の1つは、時系列の予測モデルを使って顧客を理解することです。「顧客行動を予測し、顧客がどのように反応するか、様々な顧客をどのように最適にグループ化できるか、また相関関係は何か、それらをどのようにまとめるべきか、従って、顧客を湯どうすべき最適な商品は何かを真に理解することが重要です」とシェッテ氏は述べています。
市場においては、時系列予測は市場行動を理解し、様々なタイプの資産間の相関関係を理解するのに役立ちます。リスク管理においては、量子コンピューティングは、「モンテカルロシミュレーションや、銀行内で起こりうるマネーロンダリング防止やコンプライアンス問題を理解するために」導入できると氏は語っています。
その点においてアライは今後、量子関連のプロジェクトの評価をさらに行う予定です。これには、顧客に付与されたローンの何パーセントが最終的にロスになるかを予測する信用損失モデリングなどが含まれます。アライがこれまでに行った概念実証プロジェクトは、量子コンピューティングが本格的に利用されるようになるまでの試行です。
「テクノロジーをテストして、準備を整えることが重要なのです。常に体を鍛え、スプリントドリルを行うことで、本番のレースが始まった時には準備万端になっているようなものです。ただ何かが起こるのを待っているだけではダメなのです。一貫性を持ち、準備を整えることで、機が熟した時に底力を発揮することができます」とムスクリシュナン氏は語っています。
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