ウクライナ、「ドローン戦」で変貌する戦争

ウクライナ、「ドローン戦」で変貌する戦争

ロシア、ウクライナ両軍のドローン運用部隊は、連日のようにドローンによる攻撃の動画をそれぞれソーシャルメディアに掲載している。これにより、最安で数万円程度のドローンが、いかに効率的に数億円する戦車などの兵器を破壊できるかが示され、ドローンが現代の戦場を変容させている実態が明らかになっている。

遠隔操作される無人航空機であるドローンは、古くは第1次世界大戦時から実験が行われていた。だがウクライナでの戦争ではその利用が爆発的に広がり、かつての特殊任務遂行の役割から、戦場で最も広く使われる「主役」へと変身を遂げた。

開戦当初は、ドローンの配備数は部隊によってばらつきがあったが、現在では高度に組織化され、ウクライナ軍組織の一部として組み込まれている。ほぼ全ての旅団にドローン攻撃中隊が置かれているほか、多くの部隊に小型の偵察用ドローンが配備されている。

ウクライナ政府は2024年に、FPV100万台を製造する計画。参考までに比較すると、これは欧州連合(EU)が昨年に提供した砲弾数の2倍の規模になる。

戦場でのドローン運用は、まずリアルタイムで操縦士のスクリーンに映像を送信できる高性能カメラを搭載した偵察ドローンを送りこむことから始まる。これにより、操縦士は上空から標的を探すことができる。

偵察ドローンの形やサイズはさまざまだ。最も普及している中国製の「DJIマビック」はプロペラが4つあるクアッドコプター型で、世界中で風景や結婚式などのイベントを撮影する際に使用されている。価格は1台当たり約1500─3000ドル(約22万7000─45万4000円)で、兵士が塹壕から戦場を調査する場面でも導入されている。

前線より後方に拠点を置く専門部隊は、より大きな偵察ドローンを使用する。こうした機器は有翼型のことが多く、数千ドルするカメラを複数台搭載しており、飛行しながら敵の領地をより遠くまで見渡すことが可能だ。

標的が見つかると、その位置情報が機密性の高い方法で司令部に伝達され、ロシア側の標的データをまとめたデジタル地図「クロピバ」上でも反映される仕組みになっている。

写真はウクライナ軍が使用する、ドローンなどから収集したデータで構成された情報マッピング・ターゲティング用システムの「クロピバ」。Army SOS提供

司令官は位置情報が伝えられると、対象の標的を攻撃する上で最も効果的な戦術を練る。ウクライナはロシア軍に比べて物資の数が限られており、数少ない弾薬を大切に使うためにも難しい決断を迫られる場合が多い。

FPVドローンは標的の場所に迷わず向かうことができるため、攻撃の正確性は他の武器に比べはるかに優れている。走行中の車両は攻撃をかわすことができる場合が多いが、ドローンならば追跡して命中することも可能だ。ただし攻撃の威力は、ドローンが搭載できる小さな弾頭よりも従来型の砲弾の方が格段に高い。

兵士らはに恐怖を覚えるようになったという。この音は、敵に彼らの位置が特定された、もしくは攻撃を受ける寸前であることを意味していることが多い。

ウクライナ兵らは、戦闘でドローンの使用機会が増えたことにより、戦車などの重機が前線からさらに数キロメートル離れた場所へ後退せざるを得なくなっていると話す。また、歩兵らはFPVシステムや爆弾投下型ドローンを最大の脅威として挙げた。いまや、おびただしい数のドローンが空中を飛行しており、塹壕への行き来や補強作業が困難になっているという。

長期かつ範囲の広い戦闘で鍵となるのは「コスト」だ。つまり、標的を破壊する際に使用する資源は少なければ少ないほど良い。

FPVドローンには爆弾投下型ドローンと同様、他の多くの武器をしのぐ重大な強みがある。大砲の砲弾1つより価格が安く、より正確性が高いことだ。

それでもドローン技術は、他の兵器と併用することで最も高い効果を発揮する。これまでに敵の標的数十カ所に攻撃を命中させてきたFPVドローンの操縦士であっても、前線を維持するには歩兵や砲撃が無ければほぼ無力だと語る。

長距離攻撃

ドローンが使われるのは戦場だけではない。ウクライナ・ロシア両国の軍は、互いに長距離飛行が可能な無人航空機(UAV)を用いて前線から数百キロメートル離れた標的を攻撃している。

これらの長距離ドローンは、敵陣の奥深くにある兵器製造工場や軍事基地、エネルギー施設の攻撃に使用されることが多い。

長距離ドローンの使用は、ロシアがイランからシャヘド数百機を購入し、ウクライナへ発射し始めた2022年秋から増え始めた。その効果はすぐに証明され、ウクライナが当初使用した地対空ミサイルよりもコストが低かった。

プログラム飛行型であるシャヘドの軌道は、ウクライナの防空網をかく乱するため可能な限り複雑に設定されていることが多い。

最も一般的なシャヘド136の価格は10万ドル(約1513万円)以下と推定され、ロシアは独自の製造施設を建設した。ウクライナは対抗を迫られ、対空砲や機関銃をピックアップトラックの上に乗せて迎撃した。

同時にウクライナは、長距離ミサイルの不足を補う方法として、ロシア国内へ侵入するドローンを独自に開発している。

初期のウクライナ製長距離ドローンはロシアの電子戦システムによって撃墜されることが多かったが、教訓を得たウクライナ軍はここ数カ月で工場や石油精製所など、ロシア国内の標的を攻撃できるようになった。

1月下旬、ロシアのエネルギー会社ノバテクは、ウクライナの無人機による攻撃で火災が発生したため、巨大なウスチルガ燃料加工・出荷ターミナルの操業を3日間停止せざるを得なくなった。一部の炭化水素の輸出に重要なこの施設の操業は、数週間にわたって影響を受けたとみられる。

無人機に対する電子戦

電子戦(EW)システムはドローンを阻止する最も効果的な方法であることが証明されている。両国軍ともEWシステムを使い、特定の地域の無線周波数を妨害する。ドローンの信号が妨害されると、妨害を受けた周波数によっては、操縦士は機体を制御する能力を失ったり、映像信号を見ることができなくなる。

ウクライナの操縦士によると、EWは前線でますます複雑になってきている。ほとんどのEWシステムは使用できる周波数が限られているため、ドローン操縦士はあまり一般的に使用されていない周波数に切り替えることで対応している。このため前線では、EWのオペレーターが常に異なる周波数で飛行するドローンを混乱させようとするため、技術的な「いたちごっこ」の状態となっている。

両軍はまた、電子偵察システムとも戦わなければならない。このシステムはドローンの信号を追跡して敵の操縦士にたどり着くことができ、相手の位置を特定できる可能性がある。

操縦士は、機体と自身を接続するための中継局として機能する「シグナル・リピーター」の使用を増やすことでこの状況に対応してきた。リピーターは地上に配備するか、別のドローンに取り付けて空中で飛行させることが可能で、信号の範囲を広げて操縦士の位置を分かりにくくすることができる。

トラック搭載型の大型EWシステムが高価な装備品を守るために使用される一方で、歩兵部隊は塹壕を守るためにより小型のシステムを使い始めている。ただあまり強力でないため、効果にばらつきがある。

東部で戦う第59旅団のウクライナ軍歩兵小隊長、セルヒー氏は、ロシアのUAVが周波数を変えるため、自身の部隊による手製のEWシステム、携帯型EW装置、対ドローン銃は効果が薄れたと語った。ウクライナの兵士は安全のために身元を明らかにしないよう伝えられており、同氏はフルネームを明かすことを避けた。

AIを搭載した次世代ドローン

EWシステムがもたらす課題の増大に伴い、ウクライナもロシアも人工知能(AI)によって誘導されるドローンの開発を競っている。こうしたドローンは、操縦士との通信を必要とせずに標的を特定しロックオンするため、信号の妨害を受けにくい。

AIによる標的識別は、すでに双方によって少数の無人機で使用されている。

「ダーウィン」のコールサインで呼ばれる第92旅団のドローン操縦士(20)は「このようなドローンを通信妨害することはできない。妨害するものが何もないからだ」と話した。ウクライナのドローン業界関係者によると、この技術が広く使われるようになるには、まださらなる開発が必要だという。

とはいえ、多くの製造業者、政治家、操縦士は、AIシステムが将来のドローン戦争の中核になる可能性があると考えている。EWによる防御が広く用いられるようになり、従来のFPVドローンのほとんどが役に立たなくなるという予測もある。

映像は、ロイター映像確認チームのEleanor Whalleyが検証した。これらの動画はテレグラムのチャンネルに投稿された。または、ウクライナ軍の複数のドローン部隊(クレミンナのアゾフ連隊、ラストチキノとアフデーフカの第110機械化旅団、ボディアンとフリャニキフカの国家国境庁を含む)から提供された。

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)、武力紛争地域事件データプロジェクト(ACLED、2022年2月24日から2024年3月のドローン攻撃)、戦争研究所とアメリカン・エンタープライズ研究所「重大な脅威プロジェクト」(米東部時間3月12日午後3時時点でのロシア軍占領地域データ)、外交問題評議会、サイバースペース安全保障・新興技術センター(CSET)

Mike Collett-White、Simon Scarr、Pravin Char

山口香子、大澤優花、田頭淳子、本田ももこ、宗えりか

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